MAILLARD LAB JOURNAL
カリッの土台は、私がそっと整える。ボロンの海鮮ジャガイモチヂミ案内
ぼくはボロン。ホウ素 B、植物の隠れ番だよ。野菜の中にいるぼくは、今日はチヂミの端っこから見守る係。海鮮の水気、じゃがいもの結着、焼き目の育ち方を追いかけて、薄焼きのカリもちを支えるコツを案内するね。

海鮮の水気は、焼きはじめの熱を連れていく

ぼくがまず見張るのは、解凍したシーフードミックスの表面。水が残ったまま生地に入ると、焼きはじめの熱はその水を蒸発させるのに使われる。フライパンに触れている面の温度が上がりにくくなり、焼き固まるまでに時間がかかるんだ。クラストを早く作りたいなら、海鮮の表面水分を先に物理的に取り除こう。水気を切って、必要ならペーパーで押さえる。ここは味つけの工夫より、まず水分を持ち込まない段取りが効くよ。
塩を早く加えるのも、少し注意。浸透圧差や塩溶性タンパク質への作用で、魚介から水が出やすくなる場合があるんだ。塩は焼成の直前に全体へ加えると、下ごしらえ中の離水を抑えやすい。チヂミは薄いぶん、少しの水分でも焼き面に響く。野菜の隠れ番としては、具材の水気が生地に集まる前に、海鮮を乾いた状態で迎え入れてほしいな。
じゃがいもと片栗粉が、薄い生地をつなぐ

すりおろしたジャガイモには水分がある。そこへ片栗粉を補うと、加熱中にデンプン粒が水を含んで膨らみ、糊化していく。粒から溶け出すアミロースと、膨らんだアミロペクチンが粘弾性のある連続相をつくり、野菜や海鮮をまとめる。ぼくは生地の中で、具材どうしが離れないよう見守る小さな係。けれど、追加の水を足してゆるめると、焼き上がりが過剰にやわらかくなりやすい。まずはすりおろしたじゃがいもの水分と片栗粉で結着を整えよう。
デンプンの種類や、魚介などタンパク質との共存は、できあがりの網目や食感にも関わる。だから配合を変えるときは粉だけを増減するのではなく、生地のまとまりと具材の水気を一緒に見るのが勘所だよ。薄く広げても崩れない程度にまとまり、余計な水が浮いていない状態を目指す。細かく切った玉ねぎ、ニラ、人参は生地の中に散らしやすい。切り方をそろえると火の通りもそろいやすく、ひと口の食感にむらが出にくい。
厚さを抑えると、内側の結着と表面の乾きが並ぶ

ぼくが焼き面を巡回するとき、厚さは見逃せない。生地を5〜7mmほどに薄く広げると、内部の水分が表面へ移動する距離が短くなる。内側ではデンプンが糊化して具材をつなぎ、外側では水分が抜けてクラストが育つ。厚くすると中心の水分が残りやすく、表面だけを焼いても全体の食感がそろいにくい。フライパンに入れたら、押しつぶして極端に薄くするのではなく、厚みを均一に整えてね。
油はサラダ油を主体にして、ごま油は香りづけに使うと、香りを添えながら過度な香味劣化を抑えやすい。油を介した加熱では、フライパンからの接触伝熱、水分の蒸発、油の移動、表面構造の形成が同時に進む。端だけが先に濃くなるなら、生地の厚さや油の回り方に偏りがないか確認しよう。薄く均一な生地は、内部のもちっと感と表面のカリッを同じ皿に連れてくる。
蒸気の逃げ道をつくり、焼き面をフライパンへ戻す

加熱中、生地の内側から出る水蒸気は圧力差を生む。局所的に生地が浮くと、フライパンと触れる面積が減り、その場所の熱が伝わりにくくなる。表面に浮きが出たら、限定的に穴をあけて蒸気の逃げ道をつくろう。軽く押さえれば、焼き面がフライパンへ戻って接触が回復する。穴は必要な分だけ。糊化の途中で穴を増やしすぎると、デンプンの網目を切ってしまうからね。
焼き進むと水分が抜け、接触面は水の沸点を超えて温度が上がりやすくなる。ここから、還元糖とアミノ化合物によるメイラード反応が進み、色と香ばしさがついてくる。表面水分が残るうちは温度上昇が抑えられるので、焦げ色を急ぐより、まず水分を飛ばしてから焼き目を育てるつもりで。追い油をする場合は、表面の細かな空隙に油が入り、熱移動を助ける。そのあとは中強火で短時間に。油の状態は脂肪酸組成、温度、加熱時間に左右されるから、長く熱し続けないのが要点だよ。
濃い黄金色で止めて、網の上でカリッを守る

焼き上がりの合図は、濃い黄金色。デンプン質の食品は、高温で水分が少ない状態が続くと、還元糖とアスパラギンを前駆体としてアクリルアミドが生成し得る。だから、色を濃くし続けて香ばしさを追いかけず、濃い黄金色で加熱を止めよう。魚介入りなので、見た目の色だけで安全を判断しないことも忘れずに。中心温度75℃以上を1分間保ち、温度と時間の組み合わせで加熱殺菌を確保する。
焼き上がったら皿に重ねず、網の上で上下両面から放湿させる。置いたチヂミ自身の湯気が表面へ戻ると、せっかくのクラストが再び水分を吸ってやわらかくなりやすい。網は空気の通り道を両面につくる、仕上げの道具だよ。酢醤油は水分と酸味があるから、食べる直前につけるか、別添えにする。ぼくが最後に守るのは、野菜と海鮮を包んだ中のもちもち、そして表面のカリカリ。ひと皿の中に、両方ちゃんと残してね。